1.コンサルテーションの概要
【コンサルテーションまでの経緯】
・コンサルタントの勤務校において平成15年3月に実施された、学校自己評価に関するフォーラム(スクールリーダー・フォーラム)にW市立の学校が報告校として発表された。その参観にこられた同市指導主事より引き続いてW市教育委員会の学校評価研究協力校への助言を依頼された。
・本コンサルテーションの対象となった市教育委員会協力校(小・中学校)は毎年度6-10校指定されており、指定は概ね2年度ごとに行われた(4年以上指定を受けた協力校もある)。
・平成15年度に依頼を受けて以降、毎年度あらためての指導助言者としての関わりを求められた。
【教育委員会・学校側の課題】
〔教育委員会側の課題や依頼事項〕
・コンサルテーションに入った平成15年度は、各学校の経営目標に照らした自己評価、特に教職員・保護者・児童生徒対象の外部アンケートの実施手法、教職員の評価活動への参画の方法、W市版の学校評議員の類似制度である学校協議員からの意見聴取あるいは外部評価の方法、についての助言が求められた。
・平成18年度以降は、「学校評価ガイドライン」に即した自己評価・学校関係者評価システムの設計に関する助言と各学校への普及方法についての助言を求められた。
〔各学校(協力校)の課題意識〕
・特に平成17年度までは、学校自己評価雛形(「学校教育自己診断」)を自校の実態に照らして、特に評価項目の設定についてどう「活用」すればよいか、さらに自己評価の信頼性・妥当性を高める方法について不安を抱えている学校が多かったように受け止めた。
・同じく平成17年度までは、学校自己評価結果についての学校協議員からの意見聴取、さらに外部評価の在り方について、学校に対する協力を得られるような方法について、課題意識を持っている学校が多かったように受け止めた。
【課題に対する助言】
・本コンサルテーション開始段階であり、本事例の題目「学校群コンサルテーション」に関わる助言活動を特に意識的に展開した、平成15年度-平成17年度を中心に、助言の状況を述べる。
〔助言活動の意図〕
・各協力校においては、外部アンケートを中心に自己評価活動は行われていたが、自校の状況に対応した項目作成や結果分析の点で課題が見られた。評価の手法そのものに関する助言だけでなく、各学校がしくみを「使いこなす」感覚を育てるような助言活動を行うことを意識した。そのために、コンサルタントや教育委員会指導主事からの一方向的な助言でなく、研究協力校間で互いのノウハウを交換し、各校での工夫を喚起するような学習場面づくりも大切にした。そうした場づくりの意図を持つことを含めて、確定的な用語ではないが、本実践を「学校群コンサルテーション」と意識した。
〔教育委員会への助言〕
・当初の本コンサルタントの協力校への関わりは、市会議用施設における年数回の連絡会での一斉協議と助言の形式であったが、以上の助言意図から、平成16年度に「協力校メンバーによる各協力校の相互訪問(事例研究的な方法)」「希望する学校へのコンサルタントの訪問相談」を組み込むことが効果をもたらしうる旨助言した。結果として、連絡会形式に加えて、平成16~平成17年度は年間2回の協力校への相互訪問、平成17年度より希望校へのコンサルタントの訪問相談(各協力校1回程度)が行われた。
〔各学校への助言〕
・平成15年度:協力校全体への助言形式で、学校評価の基本的枠組みに関する内容を助言した。
・平成16年度:本年度より「各協力校への相互訪問」が実現したため、相互訪問の受け入れ先となった中学校1校への助言活動、相互訪問時における当該校並びに協力校への助言活動を行った。
・平成17年度:本年度より「学校へのコンサルタントの訪問相談」が実現。9月以降全協力校8校を指導主事と訪問。各学校の学校づくり段階に即した自己評価運用手法の助言を意識的に行った。
A小学校のケース:管理職・主任に対して、学校の重点的な教育活動に照らした外部アンケート項目作成について、項目の字句表現を含めた助言及び学校の情報提供の方法を助言。
B中学校のケース:管理職と面談。数年間にわたり外部アンケートを蓄積し、数値も高い水準にある同校に対して、家庭や地域の協力を得ることも加味した外部アンケートの再編の方法を助言。
・平成18・19年度:文部科学省「学校評価ガイドライン」の公表等に沿い、本年度より調査研究校を10校に拡大しての研究が開始された。そのため、市教委側との協議により、コンサルタントが新たな助言者として教育工学・教育行政学の専門研究者2人を推薦し、3名での助言相談体制がつくられた。この2年度においては、全体の「連絡会」及び「希望する学校へのコンサルタント訪問」は続けられたが、「協力校への相互訪問」は計画されなかった。
①連絡会での助言活動:両年度内は、連絡会において「学校評価ガイドライン」の内容の普及に関する助言を行う旨の依頼を多く受けた。本コンサルタントには特に、自己評価における評価項目設定や指標設定の方法と、協力校に設置が求められた学校関係者評価委員会の、人選方法、評価サイクル、評価委員の力量開発についての助言が求められた。平成18年度のある連絡会では、各学校から招かれた関係者評価委員に対する30分ほどの研修も行った。
②各学校への訪問相談:両年度内は、本コンサルタントは4校に希望を受け1-2度の訪問相談を行った。相談内容は、各学校で設定された自己評価・学校関係者評価の評価項目の構成に対する意見提示、及び各項目への指標設定の方法の助言が多かった。
・平成20年度:新たに研究協力校10校が指定され、2年度の研究が開始された。専門研究者の助言者は前2年度と同じ3名であった。本年度より、W市において学校教育法等改正の趣旨に基づく学校管理規則改正が行われたため、同規則に対応する学校評価手法の開発が主な主題となった。本年度も全体の「連絡会」及び「希望する学校へのコンサルタント訪問」が続けられた。
ただし、教育委員会事務局側からは、評価活動の実効性を高めるような「評価項目の重点化」の在り方の助言(教委・学校両者)が求められた。
相談を行った。4校全てから、学校評価ガイドラインに基づく新しい学校評価の内容を全教員対象に講演することが求められた(うち2校では、講演後学校評価主担当教員等と面談し、設定した評価項目及び指標の適切さに対するコメントや、保護者への情報提供の手法についての助言が求められ、それに対応した)。
【コンサルテーションの成果】
・多くの協力校の外部アンケートの構成・内容が学校の実情に即したもの(府版雛形を適切に修正し、学校の取り組みを踏まえた文言修正や絞り込みがなされる)となった。
・特に協力校への相互訪問とそこでの助言活動を行った結果として、ある協力校の取り組みのエッセンスが、他協力校で独自に応用される展開が活発に見られた。「協力校への相互訪問」が、学校協議員への情報提供や学校自己評価結果の討議といった評価システムの実際的運用についての貴重な情報を各学校に与えたと考えられる。例えば、ある中学校において学校協議員による授業評価と、授業評価・外部アンケート結果に基づく学校協議員の意見聴取がなされた後、学校協議員による授業評価を学校評価の一環に組み込み実施する協力校が増加した。またある小学校では学校協議員と教職員集団の対面形式での研修会を開催、などのケースが見られた。
・ただし、教職員の評価に対する意識の低さなど学校評価の前提条件に深刻な課題を感じている協力校に対しては、本事例における相互訪問やコンサルタントの訪問相談の効果は必ずしも高くなく、学校側のニーズと適合していない場合もあったと認識された。
・また、外部アンケートの質問項目作成・分析の技術面に関して言えば、分析手法についてはクロス集計などの基本的な内容の指導助言の域に留まり、一部に物足りなさを感じた協力校もあると考えられる。