活動紹介

今年度(平成29年度)の7月より学校コンサルテーション室が設置され、実際のコンサルテーションの試行を進めてきた。このページでは、コンサルテーションの基本構造と原理を示した上で、本プロジェクトにおけるコンサルテーションの特色と課題を提示する。

コンサルテーションの基本構造・原理

コンサルテーションは「コンサルティが直面している困難を解決し、コンサルティ自身の活動が上手く展開できるように援助する」(金丸,1999)ための一般的な相談・議論の形態である。教育の領域に限っても、子どもの学習に関する認知カウンセリング、特別支援、教育相談・学校臨床心理学などの領域でコンサルテーションが試みられているが、問題や課題に即して適宜適切な分析単位を特定し、それに関与するメンバーによって話し合いのユニットが構成される点は共通している。当プロジェクトでは、この「コンサルテーション」という語を、学校管理職の資質向上という課題に即した話し合いのユニットのために用いている。

コンサルテーションのユニットと始まりと終わり

コンサルテーションの基本ユニットは、「コンサルタント」と「コンサルティ」で構成され、両者の間が対等であるような関係形成が目指される。コンサルタントは大まかに言えば、「援助者」であり、コンサルティを窓口として、学校組織全体とつながり、全体に働きかけることになる。学校現場におけるコンサルタントとしては、主に学校組織の成員外の者、例えばSSCやSSW、大学教員などが想定される。一方のコンサルティは大まかに言えば「被援助者」であり、問題を抱える学校等の組織・システムが外のコンサルタントとつながるうえでの窓口である。学校現場におけるコンサルティは、主に学校の教職員がこれに該当する。また、コンサルテーションは、コンサルティが方向を見失ったり、どう考えればよいのか分からなくなったりして、援助を求めた時に初めて開始され、コンサルティが必要とする間だけ行われる。
コンサルテーションの目標:コンサルティの自律的問題解決能力の伸長
コンサルテーションでは、コンサルタントが直接的に問題を解決することよりも、コンサルティが直面している困難を解決し、コンサルティ自身の活動が上手く展開できるように援助することを目標とする。コンサルテーションを通じて、コンサルティの視野が広がり、現状を新たな角度から見直せるようになって、自律的に動きやすくなり、意欲が高まり、新たな発想が生まれやすくなる、というのがコンサルテーションの理想である。コンサルテーションでは、しばしばコンサルタントとコンサルティの間の対等さが強調されるが、これもまた、コンサルティの自律的な問題解決の力を阻害せず、できるだけその力を伸ばすことを目指すために資する関係性を指すものと言えるだろう。コンサルテーションとは、コンサルティ当人の持っているリソースが充分に生きたものになること、そして当人を含めた学校組織・地域等が自律的に十分に機能する状態になることに向けて、貢献する場である。

プロジェクトの背景と目標、学問的位置づけ

これまで学校管理職や管理職候補者の資質・力量向上のための方法としては、中央、地方を問わず管理職研修は講義・協議・演習形式など「Off-JT(職場外訓練)」が一般的だった。Off-JTでの学びの利点には、現場の状況に左右されずに、管理職に等しく必要な知識を、均質に、そしてまとまったものとして学ぶ機会が得られる点が挙げられる。これらの利点がOff-JT型研修には認められる一方、2つの問題が予想される。
第一に、学びの深さの問題である。つまり、当人が勤務する学校において管理職として役割を発揮する際に、学んだことが充分に活用・応用に至るだけのものになっているかが定かではない。
第二に、学びの内容に由来する問題である。つまり講義等で学びうる内容は、学校管理職に一般的に必要とされる内容にとどまっており、当該学校の教育課題に向かい合う現実的な知になり難い。
九州大学でもこれまで毎年、学校の長期休業期間を利用した5日間(終日)の管理職向け公開講座「学校管理職短期マネジメント研修プログラム」(以後「マネ研」と略記)を開講し、福岡県内の管理職および候補者を対象としたOff-JTの充実を図ってきた。しかし、この講座もまた、Off-JT固有の問題からは無縁ではなかった。
学校コンサルテーション室は、Off-JTとしての「マネ研」がカバーしきれない内容の充実、つまりこの短期研修自体の意味を問いつつ、短期研修のフォローという形を取りながら、受講者が管理職等の役割を取りつつ働く現場の中で、当人が当該の課題に自立的に向かい、その資質を自ら養っていくプロセスに関与する目的で設置された。初年度に当たる今年度(平成29年度)は、このコンサルテーションの探索・試行的段階として位置づけられている。
このコンサルテーションのプロジェクトは、教育経営学的研究にも方法的に位置付けられる。つまり、コンサルテーションが十全に実現されるとき、やがては教育学――特に教育経営学が、教育の現場に根差し、教育問題の解決に資する姿勢・態度をより明確に備えていくための大事な現場になるという期待がある。つまり、教育経営学が学校現場を、一方的に調査・研究の対象や、「助言する」の対象として固定化するのでもなく、両者の間に協力・協働関係を築き、そこに学んで自己変容する学問領域を形成する上での橋頭保になるだろうという期待である。

九州大学「学校コンサルテーション」の特徴と課題

本コンサルテーション室において今回試みたのは、「学校管理職マネジメント短期研修プログラム(マネ研)」のフォローアップを目的とした学校コンサルテーションである。そのため、一般的なコンサルテーションに対して、本プロジェクトでは、「マネ研」の講師陣がコンサルタントに、そして「マネ研」の受講者がコンサルティになった。
この試みには、おのずとひとつの大きな独自性が発生する。それは、コンサルテーションの開始以前から一定の関係が形成されている点である。一般的には、コンサルティが何らかの相談の必要を生じ、コンサルタントに依頼することで、コンサルテーションの場と両者の人間関係が同時に開始される。これに対して本研究の場合、事前に互いが学びの場を共にしてきた経緯があり、それを前提として対話を始めることになる。
この特徴は、コンサルテーションの実施に当たって諸刃の剣となる。両者に面識があることは、本格的なコンサルテーションが始まりやすい土壌が予め準備されていることを意味する。しかし一方で、専門性の異なる者同士として対等・対称な関係性を取り結ぶことが難しくなりやすいことも意味する。つまり、事象の一般的・原理的な理解に通じた大学教員と、学校の中で個別具体の詳細な実践的理解(暗黙知)を形成している学校教員の間には、全く異なる専門性のある者同士として出会う可能性を潜在させているにもかかわらず、実際には当初研修の講師と受講者(教える者と学ぶ者)として出会っているために、非対称な関係性に傾きやすいことが予想される。
本プロジェクトでは、事前にOff-JTで出会っている二者の間でコンサルテーションが繰り広げられることのメリットとデメリットを充分に踏まえた上で、その展開の方法を模索し、それを支えるシステムを構築することが目指された。

■文献

金丸慣見(1999).コンサルテーション.吉川 悟(編)システム論から見た学校臨床.金剛出版,p.47-57.

■関連URL

https://motokane-lab.com/~schoolleaders/~maneken/home