本サイトは、平成29年度文部科学省受託研究「学校コンサルテーションによるOJT型管理職育成の試行」(国立大学法人九州大学)の研究成果である。本試行事業は、同省初等中等教育局教職員課「教員の養成・採用・研修の一体的改革推進事業」の中でも「研修の一体的改革推進事業:効果的な管理職の育成」に該当する取組として企画提案し採択された。
提案した企画概要は以下の通りだった。
「現行の管理職研修は中央、地方を問わず講義・協議・演習形式が一般的であるが、本企画は公開講座(学校管理職短期マネジメント研修)受講者に対し、研修後にニーズに応じて学校訪問型プロセス・コンサルテーション(E.H.シャイン)を実施し、戦略マネジメントにおいて学校組織の中での自身のプレゼンスを自覚させることにより、管理職としての資質力量を向上させるOJT型の新たな管理職育成プログラムであり、その有効性を検証する。」
管理職ないし管理職候補者の資質・力量の向上のための取組は、中央研修や全国の都道府県教育センターにおける組織マネジメント研修の強化や教職大学院スクールリーダーコースの整備など徐々に進んでいるものの、なおも量的・質的には以下のような課題が山積しているという企画者=研究代表者の問題意識から出発している。
まず、中央研修や教職大学院への派遣型の研修は学びの機会としては貴重であるが、予算的には限られた人員を対象にしか行われておらず、量的な問題をクリアーできていない。他方、比較的大勢を対象にする行政研修(Off-JT型の研修)は単発的かつ一般論に埋没しがちであり、たとえ研修内で取扱うケースや演習課題を増やしたところで、「わが校の教育課題」と結びつけた実践的な力量形成を図る機会としては不十分という問題がある。
日本教育経営学会では「校長の専門職基準」を作成したり(『次世代スクールリーダーのための「校長の専門職基準」』花書院、2015年)、各県で校長や教員の資質向上指標を策定したりする段階に入っているが、ともすれば学校種や地域特性を踏まえず一般論に陥りがちであり、勤務校との相対的な関係の中で管理職ないしその候補者としての自身に期待される資質・力量を問う機会に欠けていた。
したがって、勤務校の課題解決のために、戦略的なマネジメントを担う管理職ないしはスクールリーダーとしてのプレゼンス(存在理由)をここであらためて問いなおす必要がある。
校内研修などOn the Job Training(OJT)の意義は一般に認められているものの、その成果は学校間の格差が大きく、また管理職の育成においては十分にこれが機能しておらず、管理職の「背中を見せる」スタイルでの徒弟的育成が行われているにすぎない。これを補うような学校訪問など出前型の支援的なコンサルテーションも先駆的に進めている自治体は一部存在するが、学校経営課題の解消のためのコンサルタントとしての支援が中心であって、管理職育成の視点は必ずしも十分とはいえない。また教育センターなど行政による学校訪問ではどうしても上下関係が生じ、第三者的なコンサルテーションになじまない側面もある。
そこで本調査研究ではOff-JT(学校管理職短期マネジメント研修)とOJT(学校コンサルテーション)を繋ぎ、またOff-JTの担当講師がアフターフォーローとして、受講者の学校を訪問し、当該校の課題や経営戦略の中で、管理職としての立ち位置(プレゼンス)についての自覚を促すようなプロセス・コンサルテーションを行うこととした。ここでプロセス・コンサルテーションとは、「クライアントとの関係を築くことによって、クライアントは自身の内部や外部環境において生じている出来事のプロセスに気づき、理解し、それに従った行動ができるようになる。その結果、クライアントが定義した状況が改善されるのである。」(E.H.シャイン『プロセス・コンサルテーション』白桃書房、2002年、27頁)とされるものである。
したがって本調査研究の目的は、上記のようにOff-JT型公開講座のアフター・フォロー・アップの取組事例として、クライアント(受講者)との関係が築けている講座担当講師による学校訪問を実施することにより、OJT型管理職育成を試行することにある。また、このような報告書やホームページによってそのノウハウを開示し、これを各都道府県の教育センターや教職大学院等で実施できるよう、支援できるための情報のアーカイブと成果発信を行うことにある。
本委託事業を着実に推進するにあたり、採択にあわせ、九州大学大学院人間環境学研究院教育学部門内に学校コンサルテーション室を開設した。運営委員会委員ならびに事務局長の他、本研究を中心的に推進するための学術研究員として、学校現場をフィールドに十数年の調査研究実績があり、環境心理学のプロパーである木下寛子氏(博士)を雇用することができたことは大きかった。これまでの教育学研究の先行研究ではみられなかったコンサルテーションをめぐる視点が心理学研究という「異質」情報から追加され、学際的に新たな地平を拓くことができた。
上半期は12回目を迎えた九州大学学校管理職短期マネジメント研修(5日間)の実施に向けた準備と取組を行い、学校組織マネジメントの基礎理論の提供と実践的な演習の実施、そして放課後の企画により受講者とのラポール構築に努めた。
下半期は、受講者のニーズに応じて担当講師を派遣し、スクールリーダーとしてのプレゼンスの醸成を目的とした学校コンサルテーション事業を実施した。コンサルテーションには必ず記録係として学術研究員もしくは院生が同行し、本事業の成果の記録を行った。本サイトでは事柄の性質上、事例をつぶさに紹介することはできないが、研究成果報告書(冊子)では、この学校コンサルテーション実施過程をつぶさに記録するための手続き過程や方法論と実際の記録を厚みをもって紹介している。
なお、学校コンサルテーション室では小・中・高等学校、特別支援学校等の「学校経営に関する情報」(学校要覧や学校経営案)を収集・整理した。同様の文科省委託研究経費でかつて九州大学に設置されていた学校評価支援室では九州地区を中心に全国の学校要覧や学校評価関係資料の収集を行ったが、それらの情報は古くなってしまった。平成29年度には、その再収集を進めることで、改めて九州地区を中心に全国の教育委員会・教育センターと連携しながら、学校コンサルテーション事業の基盤構築を進めていくための端緒についた。予算的に厳しくまだ十分ではないが、こうして収集した情報をもとにした本ホームページは、将来的には各都道府県の教育センターや教育系の重点大学、教職大学院等が学校コンサルテーションを遂行するための基盤となるはずである。他に類をみないような情報収集を行っているので、継続して予算を確保するなどして、この基礎的なアーカイブ作業を継続していきたいと願っている。また、収集した学校要覧を分析した論考も研究室内でいくつか作成した(九州大学教育法制研究室の研究室紀要第20号(通巻28号)の特集2を参照されたい)。このように学術的な研究成果の発信も引き続き行っていきたい。なお、本サイトの一部は九州教育学会鹿児島大学大会(2017年11月26日(日))でのラウンドテーブルをもとに加筆修正を行った内容を掲載している。
ご高覧の上、ご意見を頂戴できれば幸いである。
2018年3月 研究代表者
九州大学大学院教授 元兼正浩