研修について



1.ごあいさつ

  学校の危機は、地震や雷・台風などの自然災害、集団食中毒や教育活動中の校内事故ばかりではありません。いじめ、不登校、校内暴力、飲酒・薬物乱用といった児童・生徒指導の対象となる「教育問題」、体罰やセクハラ、情報流出などの不祥事やバーンアウト等による休職、指導力不足・不適切対応、学級崩壊など教職員に起因する「教育問題」がマスメディアで多く報じられています。また、いじめや教師の「指導」など学校管理下における関係性に由来する生徒の自殺、不審者侵入による死傷事件などは学校がその予見可能性を問われる危機です。保護者や地域住民からのクレームや脅迫行為に晒され、振り回されている状況も多くみられるようになりました。さらには鳥インフルエンザやテロなど未経験の「新たな危機」も先行き不透明な時代において十分予想されます。
  こうしさまざまな危機は、いつ、どの学校で起こってもおかしくありません。特に校長をはじめとする学校管理職はこうした危機をつねに意識しながら、学校経営に取り組まなければなりません。そしていくら意識してもすべての危機を予防し、回避できるものではありません。管理職としては危機が起きたときにすみやかに対処できる迅速なクライシス・マネジメント(危機対応)が求められます。
  したがって、本研究は「学校管理職のためのクライシス・マネジメント・スキル開発プログラム」とテーマ設定して、事後対応のあり方を、九州大学大学院法学研究院附属紛争管理研究センター(レビン小林久子教授)の調停プログラムの知見をお借りしながら、福岡県教育センター教育経営部とスクリプトやその実施方法を共同研究開発し、各地域の研修においてこれを実際に行うものです。研究分担者である教育経営・法制研究室に所属の大学院生たちが各研修に参加し、研修内容を記録・検証し、その有効性をさぐることを大きな柱としています。また、こうした危機対応(クライシス・マネジメント)を組織的に行うことは、事前の危機予防(リスク・マネジメント)にも繋がっていきます。それゆえ、ひろく「危機管理」をクライシスマネジメントとリスクマネジメントの連関として捉え直し、「危機管理」研修の全国的状況や民間企業における危機管理の取組についても調査することといたしました。これにより従来型の「危機管理」研修をブラッシュアップできる多くの示唆を得ることができました。
  学校の危機管理およびその研修に対する重要性はひろく認知されるようになって参りました。例えば、2009年度より本格実施される教員免許更新講習においても、修了認定基準の到達目標の一つとして「学校における危機管理の必要性について、理解している。」が位置づけられており、今後ますます教育界のニーズは高まることでしょう。
  本研究がそうした一助となることを願ってやみません。

九州大学大学院 教育学部門           

准教授 元兼正浩(研究代表者)

2.研修の考え方

●本研修は、以下の図のように、危機管理論に教育学領域外からの知見を取り入れ、学校管理職向けにアレンジし、研修プログラムを作っています。



●危機管理の中でもとくにクライシス・マネジメント(危機対応)を重視し、演習を行うことにより、スキルを習得し、それが結果的に危機予防へとつながるマネジメント・サイクルの確立を目指します。


3.研修の方法

【講義】 学校の危機管理に必要な知識を得るために、リスクマネジメント、クライシスマネジメントの両面を押さえた講義を行います。
●元兼准教授による「学校の危機管理論」の講義


【演習】 「保護者からのクレーム」を想定したロールプレイを行います。

●指導主事によるロールプレイの説明


●受講者によるロールプレイの実施



4.受講生の感想

●研修後の受講者アンケートから、次のような感想が得られました。

校長

○理論的な考えをもとにして、実践的判断力や決断力を必要とする校長に適合した研修内容です。
○実際に保護者対応するときの管理職の態度に生かしていきたいと考えています。
○学校長としての危機管理のあり方等、大変参考になりました。危機管理は学校経営の中心です。

教頭

○保護者と担任とをとりもつ関係(中立的立場)がとれる力量を教頭につけてほしいという話は有り難くいただきました。
○教頭として、危機管理に対する組織化、情報の伝達、その場での行動等、本校のマニュアルの見直しにも役立たせることができます。
○危機管理は、「組織力」なんだという視点を改めて感じさせられた。また、教頭して常に情報が集まるようにしておくことが、教頭の大きなバロメーターの一つになっていることも同時に感じさせられました。

ミドルリーダー

○危機管理というとリスクマネジメントばかり考えていたが、クライシス・マネジメントについても理解することができました。
○危機管理の研修についてはこれまでにない新しい研修でした。管理職から教諭への指導演習はたいへんむずかしいと感じました。ぜひ学校の中でも検討したいところです。
○学校において、必要(重要)とされていて、具体的な研修が少なかった内容について、体系的かつ具体をまじえて講義して頂きありがたかった。