システム




九州大学「学校コンサルテーション」の過程と構造

 

「学校コンサルテーション」のシステム

九州大学「学校コンサルテーション」では、Off-JT型の従来的な研修からコンサルテーションの場へと接続する点に特徴がある。この特徴は、そのまま本プロジェクトのコンサルテーションの実施過程および支援体制にも反映された。
コンサルテーション実施の過程は①「短期研修プログラム」でコンサルテーション希望者を募り、②あらためてコンサルテーションに当たっての「コーディネート」を行い、③「コンサルテーション実施」、④コンサルテーション自体の「記録・評価」を行い、継続の必要の有無を検討するという過程を踏む。

①〔事前〕学校管理職マネジメント短期研修プログラム(マネ研)

Off-JTの管理職向け短期研修プログラムである。このプログラムは毎年、学校の長期休業期間を利用した5日間(終日、主に夏季)の管理職向け公開講座で、九州大学箱崎文系キャンパスにて開催されている。今回(平成29年度)は8月上旬(8月2~8日)の実施で、この場で学んだことのアフターフォローとして、直接、当該講座の講師の学校訪問を希望する受講者を募り、後日のコンサルテーションへと繋げる形を取った。

②〔事前〕コンサルテーション実施に向けてのコーディネート(インテークとアセスメント)

希望者(コンサルティ)に対して、学校コンサルテーション室から連絡を取り、コンサルタントとして派遣する講師とコンサルティの間の調整を行う。コンサルテーション室には学術研究員が配置されており、主に電話やメールでのやりとりを通じて連絡調整を行うコーディネーターの役割を担った。この連絡調整は、いわゆるインテークとアセスメントを行う過程を兼ねたもので、(1)学校訪問の諾否の再確認を行い、(2)コンサルティが自身として認知している現在の学校の状況や課題を把握するものとなった。このやりとりの際、できるだけ、コンサルティが明確に言語化していない内容についても積極的に汲み取るようにし、様々な手掛かりをもとにして学校の状況に関しても大まかに見立てをするようにした。このやりとりの過程をできるだけ網羅的に記録し、印象や解釈を加えた上で、コンサルティの顕在的・潜在的な課題を踏まえてコンサルテータントを選定し依頼を行った。

③〔実施〕コンサルテーションの実施/随行者の役割

 コンサルテーションは基本的に、コンサルタントとコンサルティの少なくとも2名が居れば成り立つ相談ユニットだが、本年度は、この二者に、場全体と話し合いの内容の観察・記録や簡単なインタビューを行う随行者(アテンダント)若干名を加え、少なくとも3名以上での話し合いの場を構成するようにした。
この三者以上での話し合いの場の形態に至ったことには、二つの理由があった。第一は、探索的段階特有の課題からで、その場をできるだけ記録・記述してその後の検討のために蓄積するために、場を観察・記録する人員が必要だったことがあげられる。第二に、派遣されるコンサルタントの多くが、コンサルティとのたった二名での面接状況は、気づまりで過度の緊張をもたらしやすく、対話を目指していても、ともすれば助言・指導の形になって一方的なコミュニケーションになることを懸念したためである。
なお、随行者の役割は教育学専攻の大学院生(修士・博士課程)が担った。随行者には、コンサルテーションの在り方を見て、次世代のコンサルタントとして必要なものを学ぶことが期待されている。

④〔事後〕コンサルテーションの記録・評価(事例報告)

コンサルテーションはコンサルティが必要とする間に限って行われ、コンサルティが抱える一つの事例の最初から最後までの成り行きにコンサルタントが一貫して関わり続けるとは限らない。このことは、コンサルテーションにおいての二者の対話がどれだけその後の実践等に生きたのか、追跡的に確認・評価することができない可能性を示唆している。
本プロジェクトでは、コンサルテーション後の追跡的な確認・評価の可能性を視野に入れつつも、基本的にはコンサルテーションの場におけるコンサルティの変容、あるいは場の変容に注目した評価を大切にする方向性を打ち出した。コンサルテーションの現場では、随行者が場全体の状況と対話の成り行き、および実施後のコンサルタントのつぶやきなども含めて網羅体に観察し、簡単な記録を取るようにした。それに基づいて、コンサルテーションの場、あるいはコンサルタントの在り方がコンサルティにどのような意味を持ったのかを、観察・記録によって把握できる範囲まで把握し、そこからコンサルテーション実施上の課題と管理職の資質および向上の在り方を明確にすることを記録・評価の段階での目標とした。
当然ながら、事例において記述されるのは、コンサルテーションの場の限られた範囲における観察内容であり、実施後の「効果」を明らかにするものにはならなかった。しかし、その限られた範囲で見極められるものを明確化することで、現在の個々の学校、個々のコンサルティの状況・状態、あるいはコンサルテーション場面に即した、より現実的な実施の課題、および管理職の資質とその向上へのコミットメントの仕方を見出せる可能性が開けてきた。

⑤基盤としての学校コンサルテーション室とリソース

学校コンサルテーション室とコンサルテーションのためのリソースの蓄積は、学校コンサルテーションの一連の過程を支える基盤になった。既に述べた通り、学校コンサルテーション室には、現在コーディネーターが配置されており、連絡調整、インテークとアセスメントを通じた、コンサルテーション実施のサポートのほか、随行者の記録の集約と分析・評価等の事後的な作業に関してもサポートを行っている。これに加えてコンサルテーション室では随行者がまとめあげた事例を蓄積するほか、学校要覧等の学校経営に関する諸資料・文献の蓄積を行って、コンサルテーション実施をサポートするリソースの充実を図った。