1.ごあいさつ
教育界も「ひしめく」団塊の世代が定年退職の時期を迎え、「ワイングラス型」などと称されてきた教員構成ピラミッドの形も変化しつつあります。とりわけ都市部では校長退職者の急増に伴い、学校管理職候補者の確保が急務となっており、今後は従来の昇進ルートを辿らずに管理職に抜擢されるケース(教頭や教務主任の未経験者など)や一般行政、民間出身者の登用なども増えることが予想されます。そのため、新任(新採)校長研修もしくは次代を担うスクールリーダー対象の任用前研修等において、効果的に学校管理職としてのスキルや資質・力量を修得してもらう研修トレーニング方法を開発する必要に迫られているといえます。
こうした現状の緊急性に鑑み、このたび、独立行政法人教員研修センター「教員研修モデルカリキュラム開発プログラム(平成21年度教育課題研修)」に応募しました研究テーマを「新採校長研修のアクション・リサーチによる『次世代スクールリーダー』養成プログラムの共同開発」とネーミングし、一年間の研究開発事業を行うことができました。その際、斯界の専門学協会であります日本教育経営学会が作成しました「校長の専門職基準[2009年版]-求められる校長像とその力量-」の知見を踏まえつつ、これからの校長職に期待される役割や備えておくべき資質・能力について検討しながら、断続研修によってこれらの力量を効果的に修得する方法を開発することを主たる目的としました。
このため、年4日間の断続的な講義・演習と、研修と研修との間をつなぐ、練り上げたワーク・シートや課題(プレゼンス証明シート、校長講話、タイム・タスクマネジメント、リスク予測マップ、人事評価シート、等)を提供するスタイルの新採・新任校長研修を同県2つの政令市教育センターで実施し、メタ評価を重ねながらアクション・リサーチ型のプログラム開発を行うことにしました。併せて、新任校長研修の全国的な実施状況や校長・教頭に対する「新任校長研修」に対する意識・ニーズの調査、さらには先行研究や国内外事例調査から新任校長研修動向レビューなどを実施し、本プログラム全体の位置づけについても検討を行うことにしました。
我が国の教育行政改革・学校経営改革のキーパーソンとして一層、存在感が増している校長職の研修に対し、新採時の研修を効果的に行うことの意義は小さくありません。本研究がそうした一助となることを願ってやみません。
九州大学大学院 教育学部門
准教授 元兼正浩(研究代表者)
2.研究開発の姿勢
本研究では、「一般的・汎用的な能力」に偏りがちであったこれまでの新任校長研修を再検討し、「自校に持ち帰ってからも活用できる研修」を新たなコンセプトとしてプログラムを開発しました。研修では、新任校長として必要なマネジメントについてグループワーク等も活用して受講者全員がともに考え(「思考系」)、そこで知り得たこと、学び得たことを各学校に持ち帰り実践してもらうように促しています。そして、各学校での実践を支えるため、各学校で活用できるワーク・シートを開発しました。
3.研修の方法
本研修は、7つの校長の専門職基準(後掲)の構成要素を視座としてチェック・アンド・アクションを行い、改善や軌道修正を図りながら、以下の図のようなコンセプトで、合計4回にわたる研修プログラムを開発・推進しました。
研修第1回目は、上図のように、組織マネジメント理解をテーマとし、校長の専門職基準「(1)学校の共有ビジョンの形成と具現化」・「(2)諸資源の効果的な活用」・「(6)倫理規範とリーダーシップ」、「(7)学校を取り巻く社会的・文化的要因の理解」に沿った4つの研修内容(「校長としてのリーダーシップ」・「学校組織の特殊性」・「タスクマネジメント」・「ビジョンとミッションの違い」)で構成されています。
第2回目は、校長の専門職基準「(4)諸資源の効果的な活用」の中の「危機管理」を主なテーマとし、「自校の現状認識」・「リスクマネジメントトレーニング」・「クライシスマネジメントトレーニング」の3つの演習で構成されています。
第3回目の研修では、校長の専門職基準「(1)学校としての教育に関する共有ビジョンの形成・具現化・維持」を目的の根底に据えています。ビジョンを明確に提示するための「校長講話」の活用を提起し、それを「(3)教職員の職能開発を支える組織体制づくり」・「(2)教授・学習活動の質を高めるための組織体制づくり」につなげるための方途を解説します。さらに、ビジョンの浸透過程を、「人事評価」の実施を通して確認します。その際、校長にもとめられる「(6)倫理規範とリーダーシップ」についても取り扱います。
研修第4回目では、さらに視野を広げて、学校評価を地域とのコミュニケーションツールと位置づけます。学校評価を活用し、「(7)学校をとりまく社会的・文化的要因の理解」を図り、「(5)家庭・地域社会との協働と連携」を円滑に行うことで、学校関係者を広く応援団として巻きこむことについて取り扱います。
そして、本研修の総復習として、「タイムマネジメント」をテーマに、自己の時間意識とその活用について振り返ります。本ホームページではアプリをご活用ください。
以上、一連の研修を構想し、分析する拠り所として、日本教育経営学会が2009年に作成した「校長の専門職基準」(http://jasea.sakura.ne.jp/teigen/teigen_index.html)を参考にしました(上図は構成要素の概念図)。これを踏まえて試行を重ねながら何度も練り直し、本プログラム開発の研究成果と今後の課題を確認しました。
4.推進体制
本プログラムは北九州市立教育センターの担当者と福岡市教育センターの担当者、そして九州大学において学際的に組織したスタッフとで共同開発したものです。
九州大学関係者
所属 | 氏名 | 専門 | 開発組織における役割 | 運営 会議 | 企画 会議 | 推進 会議 |
---|---|---|---|---|---|---|
人間環境 学研究院 |
元兼 正浩 | 教育法制 |
事業代表者: 統括・事務局長 |
○ | ○ | ○ |
同上 | 八尾坂 修 | 教育経営学 | 研究分担者 | ○ | ||
同上 | 田上 哲 | 教育方法学 | 研究分担者 | ○ | ||
同上 | 増田 健太郎 | 臨床教育学 | 研究分担者 | ○ | ||
人間環境 学府 |
金子 研太 | 教育法制 |
研究分担者: |
○ | ○ | |
同上 | 清水 良彦 | 教育方法学 | 研究分担者:事務局員 | ○ | ||
同上 | 田中 光晴 | 比較教育学 | 研究分担者:韓国班担当 | |||
同上 | 波多江 俊介 | 教育法制 | 研究分担者:事務局員 | ○ | ○ | |
同上 | 畑中 大路 | 教育経営学 | 研究分担者:事務局員 | ○ | ○ | |
同上 | 前田 晴男 | 教育法制 | 研究分担者:事務局員 | ○ | ○ | |
同上 | 山下 顕史 | 教育経営学 | 研究分担者:事務局員 | ○ | ○ | |
同上 | 雪丸 武彦 | 教育経営学 | 研究分担者 | |||
同上 | 楊 川 | 教育法制 | 研究分担者:事務局員 | ○ | ○ | |
同上 | 李 昱輝 | 教育経営学 | 研究分担者:事務局員 | ○ |
企画会議協力者
企画会議では、福岡市や北九州市の小学校校長・教頭・教諭・福岡県内政令指定都市外小学校教諭・県議会議員・一般行政職、大学事務職員ら多くの方にご協力いただきました。ワーク・シートや研修プログラムの開発にあたり、企画提案者やオブザーバーとして現場に即したご意見を頂戴しました。
教育委員会関係者
所属 | 氏名 | 所属組織における役職 |
---|---|---|
北九州市立教育センター | 大竹 順司(申請時) | 前所長 |
古林 節子(現在) | 現所長 | |
福岡市教育センター | 木村 俊明(申請時) | 前所長 |
柴田 守(現在) | 現所長 | |
北九州市立教育センター | 井上 勝美(申請時) | 総括指導主事 |
中島 正継(現在) | 指導主事 | |
福岡立教育センター | 瀧口 博之(申請時) | 主任指導主事 |
森田 博美(現在) | 主任指導主事 |
5.受講者の感想
校長としてのプレゼンス
- マネジメントに関するカタカナ言葉の意味が少し分かってきた。演習をまじえてよく分かる研修でした。自分のあいまいなビジョンをもう一度見直そうと思いました。
- 教頭職と校長職の違いを改めて認識することができる内容だった。本校の現状に応じた、決断までの筋道を考えたいと思う。
危機管理
- 危機管理について再考、そして今後の学校状況に応じて対応していく上で大変参考となる研修となった。
- 保護者、地域住民の不当・理不尽な要求行為についての事例研究をグループ(4人)で行うことによって、状況把握、説明責任、同一歩調、記録等の大切さを再確認できた。
校長講話
- 校長講話の意義について研修を受け、なんのためにするのか問い直すことができてよかった。互いに校長講話を実際に聴きあい、自分の内容について見直すことができて大変良かった。
人事評価者演習
- 業績評価については、評価者としての責任を感じた。自分の思い込み、好みに偏ることなく公正的な評価者となるよう研鑽していきたい。
タスクマネジメント
- 校長業務のチェックシートは、自分をふり返る点で大変参考になった。
- タイムマネジメント表は私たち一人一人のデータをレーダーチャートにしていただきありがとうございました。自己の職務を客観的に見る参考にさせていただきます。
学校評価
- 本日の学校評価に関する講話で学校評価に関する考え方が全く変わりました。今までは、重たいものを感じていましたが、少しポジティブに考えていいことに気付きました。
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