研修開発

ケースメソッド教材

何で管理職が決めないのですか?

 天山特別支援学校は、創立30年目の知的障害単一の特別支援学校である。児童生徒数は小学部15学級70名、中学部13学級63名、高等部19学級113名の合計47学級246名、職員は管理職、指導教諭、教諭、寄宿舎指導員、調理事務職員から成る、総勢165名である。A 県内では最大規模の特別支援学校であり、特別支援巡回相談事業に職員を派遣したり、学外一般からも参加できる研修会の開催を年間多数実施したりするなど、教育センター的役割を兼ねている。校長・副校長・教頭は今年度着任しており、いずれも現在の役職は2校目である。毎年職員の約4分の1が人事異動で入れ替わる。
 伊藤先生は、本校5年目、52歳の高等部主事である。新採から現在まで一貫して養護・特別支援学校に勤務してきた。10年前には大学院修学休業の制度を活用し、地元の大学院で専修免許を取得するなど、特別支援教育への知識や経験は豊富である。職務上、高等部の職員から様々な相談を受けたり、行事の企画立案をしたりすることが多いが、理路整然とした職務遂行ぶりで、多くの職員から信頼を得ていた。
 8月、伊藤先生は志田先生と公用車で一緒に出張に向かっていた。志田先生は38歳で、本校4年目である。本校に赴任する前は、7年間A 県内で最も偏差値が高い普通科高校に英語科教員として勤務していた。どういう経緯で本校の赴任にいたったのかは分からない。昨年度は突然「これまで畑違いのキャリアだったので、特別支援学校のことをよく勉強してきます」と自己研鑽休業(無給)の制度を活用し、大学院で臨床心理学を学びに1年間休職をしている。今年度は職場復帰し、高等部2年生の学級を担任している。車中、伊藤先生は志田先生に「1学期今のクラスを担任してみて、どうだった?」と聞いてみた。志田先生は、『う~ん、正直手強いですね。個別対応が必要な生徒が複数名いて、クラスの生徒数も法定人数を上回っているので、とにかく人手が足りないという感じです。』と答えた。続いて『この学校は、担任決めはどのようにしているのですか?』と聞いてきた。伊藤先生は、高等部の担任決めは、年度末に高等部主事(兼高等部教務主任)・3名の学年主任・高等部教務副主任の5名から構成される高等部運営委員会が担任配置案を作成し、管理職決済を受ける流れであることを説明した。それを聞いて、志田先生は『管理職は配置案作成に直接関わらないのですか…』と驚いていた。伊藤先生は、主任・主事は管理職の案で決定するが、その他は担任だけでなく、公務分掌も高等部のことは高等部運営委員会が配置案を出していることを話した。ここで、出張先に到着したために話は中断となり、帰路で再びそのことが話題になることはなかった。
 9月に入り、2学期がスタートしたため、伊藤先生は慌ただしい日々を送っていた。「当面は10月中旬に開催される運動会に向けての準備に砕身することになるだろう。」という見通しであった。そんなある日、3年学年主任の東先生から最近志田先生があちこちで不平を言い散らしているようだという話を聞いた。その内容を要約すると、①大学院でせっかく臨床心理学を学び、教員と違う視点からの支援法で生徒や学校に貢献しようという思いだったのに、公務分掌ではそれを活かせる教育支援部に配置されていないこと、②その公務分掌配置案を出したのは管理職ではなく、高等部運営委員会であり、そもそも高等部運営委員会のメンバーは、人事データーベースを持たないから、情報不足で人的配置に齟齬をきたすのは当然だ。実際ここに赴任した時は、前任校と部活動兼務(ボクシング部)であったが、その事情を知らない高等部運営委員会から、公務分掌として、しばしば土日に出勤を要する地域交流部に配置されたため兼務に支障が出た、③教育支援部の先生達からは、「昨年大学院で学んだことを活かして、手伝って」と言われるので、貢献したい気持ちもあって就学相談等の出張にしばしば行くが、本来の公務分掌と2つ携わることになり、またクラスの人数も多いこともあって大変負担であること、というものであった。志田先生は、8月に伊藤先生から人的配置の流れを聞くまでは、教育支援部に配置されなかったことに対して漠然と不満を抱くような感じであったが、話を聞いた後は不満のぶつけどころが明確化したことで、人に話さないといられないほど不満が大きくなったということであった。伊藤先生は、自身の話が発端の1つとなった認識はあったが、志田先生が不平を漏らしている場面が、同僚との飲み会や食事会といった、勤務時間外の場面であったことや自身が多忙であったため、特に気に留めなかった。

 10月に入ってすぐに、職員会議が開催された。主な内容は体育祭準備の最終確認であった。順調に確認が進み、会議も終わろうかという時に、突然志田先生が挙手をした。その後の発言内容は、東先生から聞いていた不満の内容であった。志田先生は、話の最後に「人的資源の有効活用は、管理職にとって重要なミッションであるはずですが、なぜ、昨年度の管理職はご自身で配置案を出されなかったのでしょうか?そして、今年度の新しく赴任された3名の管理職は人的配置の手筈をどのように運ばれるおつもりでしょうか?」と管理職に質問した。手塚校長は職員会議の残り時間を確認した後、「別の機会に回答いたします」と答えた。その直後に、勤務時間終了を告げるチャイムが鳴った。翌日、伊藤先生は、この件についての対応を検討するため校長室に呼ばれた。

 

問1.志田先生の不満①~③について、伊藤先生の立場から改善できることはありますか?
問2.伊藤先生は、志田先生に対して今後どのように対応したらよいですか?