少子化、教員大量退職によるいびつな教員年齢構成は教育界の大きな課題の一つであり、ミドル層の教員をリーダーとして質・量ともにいかに育てるかが次世代に繋ぐ鍵となっています。ただ、ミドルの定義も曖昧ですし、一部の教員に仕事が集中している現状ではそうした中核教員だからこそ十分な研修の機会が与えられないというパラドクスも発生しています。学校現場でのOJTは重要ではありますが、OJTとして学べることにはおのずと限界があり、内容や方法を精査した効果的なOff-JT研修を行う必要があります。そこで効果的・効率的な研修を行うためのコンテンツ開発を行い、全国の教育センターで開催されているミドルリーダー研修の運営を促進させることが本プロジェクトの狙いです。
繰り返しになりますが、仕事の「質」が問われ最も研修が必要であるにも関わらず、業務多忙で研修へのアクセスの機会が手薄となっているミドルリーダー教員に対する効果的な研修を行うためのコンテンツ開発を行います。スクールリーダーシップ開発に力を注いできた九州大学大学院の元兼研究室では、これまで校長や校長候補者向けのケースメソッド・スキル開発や管理職研修の「反転授業」(web配信によるデジタルコンテンツによる事前学習)やアクティブラーニング型の研修を実践開発して参りました。そうした知見を活かして、これをミドル向けに焦点化し、ケースメソッドやロールプレイのミドル対象スクリプトを作成し、実際にそれを使ったトライアル研修を実施し、これを検証してケースの質を高めていく熟議を重ねます。ここで開発したコンテンツは本プロジェクトホームページにアップして、全国の教員研修センターや教職大学院でひろく活用されることを目指します(オープンソース)。なお、本研究はケースメソッドを用いた次世代リーダー研修で実績のある熊本市教育センターとの協力で進め、また広島市、宮崎県の各教育センター、小郡市教育委員会、そして多くの校長、教頭ら現職教職員、さらには教職大学院に勤務する研究者らのご協力により、より実行可能性の高いプログラム開発を持続的に行います。
理論的には、日本教育経営学会が作成した「校長の専門職基準」(2012年一部改訂版)を手がかりとして、ミドル層に期待される資質・力量の内実について検討する(先進事例調査などヒアリングを実施する)一方で、管理職研修をはじめ多様な職種、校種に対してケースメソッドなどアクティブラーニング型研修の方法を行い、プレ研修としてその効果検証やプログラム課題分析を行います(平成28年5~7月)。
夏季開催の学校マネジメント研修や中央研修でミドルを対象に試行的に上半期の成果を反映させた研修のプログラムを実施します。その後、9月に企画運営委員会で方向を検討し、秋以降のコンテンツ開発トライアルへと向かいます。
10月よりコンテンツ開発会議を定期的に行い、模擬的にケースメソッド研修トライアルを行い、その議論をつぶさに記録して熟議を行い、有効なコンテンツをピックアップします。ケースメソッド研修の第一人者である慶応大学MBAの竹内伸一氏(4月より徳島文理大学教授)らを招聘し、指導を受けるなど客観性を担保したトライアルと熟議を繰り返します(平成28年10月~平成29年1月)。
最終的にはミドルを対象とした①組織マネジメント、②危機管理、③戦略策定の研修にあたって有効なケースやロールプレイスクリプトを作成し、それを特設するホームページにアップし、web上で全国の教育委員会、教育センターや教職大学院で利用可能となることを目指します。複数年計画の1年目としてまずコンテンツ開発を行います。
以下に掲載している推進体制のメンバーを中心に構成する連絡協議会(企画運営委員会)は28年度中に3回(6月、11月、1月)開催します。第1回(6月下旬)の協議会はメンバーの顔合わせと全体計画の確認を行いました。一年間のスケジュールと本研究開発事業のミッションを合意することが主な目的でした。第2回(11月中旬)ではプログラム開発について上半期のモニタリングの成果を報告し関係委員の質疑を受けながらコンテンツ作成にあたっての配慮事項について協議します。第3回(1月下旬)は下半期に作成したコンテンツ評価についての協議となります。実際に作成したスクリプトやケースについて回答例を含めた協議を行います。なお、本年度末までには外部評価委員らの意見も踏まえた成果報告書を作成する予定です。
本研究開発の成果として得られた知見を活かし、平成29年度以降は全国的に喫緊の課題であるミドルリーダーの育成に加え、さらに学校事務職員、臨床系専門職、地域協働担当教職員ら「チーム学校」を支える構成メンバーに焦点を移して本件研究開発事業を発展的に継続させたいと考えています。事務職員らノンティーチング・スタッフの危機管理論や組織マネジメントのコンテンツ(ケース)作成へと事業を展開します。また、本件研究開発事業が成就した暁には熊本市教育センターと九州大学教育法制研究室とで連携協定の覚書などを交わしてさらなる信頼関係を深めたいと考えております。
所属 | |||
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人間環境学研究院 | 元兼正浩 | 企画運営統括・研修講座実施 | 教育行政学 |
金子研太 | カリキュラム開発部門 (デジタルコンテンツ担当) |
高等教育論 | |
兼安章子 | ディスカッションリーダー育成担当 | 教師教育学 | |
長崎大学 | 畑中大路 | 研修講座実施・企画運営委員 | 教育経営学 |
福岡教育大学 | 大竹晋吾 | 研修講座実施・企画運営委員 | 教育経営学 |
大分大学 | 清水良彦 | ミドルリーダー研究・実践講学 | 教育方法学 |
熊本学園大学 | 波多江俊介 | 研修講座実施・カリキュラム開発 委員・熊本市との連携窓口 |
教育経営学 |
熊本市教育センター | 宮本博規 | 共同研究代表・企画運営委員 | 所長 |
熊本市教育センター・ 研修・研究班 |
太良木香江 | カリキュラム開発部門・連携窓口 | 担当指導主事 |
広島市教育センター | 大上隆之 | カリキュラム開発部門・連携窓口 | 指導主事 |
福原宏 | カリキュラム開発部門・連携窓口 | 指導主事 | |
小郡市教育委員会 | 清水満 | カリキュラム開発部門・連携窓口 | 指導主事 |
宮崎市教育研修センター | 藤岡博 | カリキュラム開発部門・連携窓口 | 指導主事 |
兵庫教育大学大学院 | 浅野良一 | 研修講座実施・企画運営委員 | 教育行政学 |
人間環境学府 | 原北祥悟 | 事務局員 | 教育行政学 |
小林昇光 | 事務局員 | 教育行政学 | |
柴田里彩 | 事務局員 | 教育行政学 |
ケースメソッドのコンテンツ作成にあたっては、熊本市教育センターと九州大学を中心とするカリキュラム開発委員がその中核を担いますが、その下準備作業を含め、九州大学大学院人間環境学府教育システム専攻の大学院生が対応します。現職経験を持っている社会人院生が多く所属し、以前のケース作成にあたっても大きな力を発揮しております。また、同じ政令指定都市である広島市教育センターの担当者にもコンテンツ作成を依頼しており、そのほか、小郡市や筑後市、遠賀郡学校運営委員会などミドルを対象にケースメソッド研修を実施している関係団体とも協議しながら、研究開発に取り組みます。また大分大学や佐賀大学など九州一円の大学関係者にも参画を要請し内諾を得ています。