研修開発

ケースメソッド教材

管理職は、職員の気持ちをわかってくれない!

 E 中学校は学級数20、校長、教頭、主幹教諭、教務主任以下を含む40人の教職員で構成される大規模校である。職員室内の職員の机配置は、学年ごとにまとめられ、各学年と管理職らによる4つのブロックが形成される。このような配置上の問題と、業務上の理由から、異なる学年の職員同士、とりわけ、学年職員と管理職の意思疎通が不足しがちである。
 決定的だったのは、私立高校入試への出願点検作業の時期のことである。3年生の各担任教諭は、高校への提出書類である調査書を作成しなければならないが、提出段階以前に、教務主任、主幹教諭、教頭、校長のチェックを受けなければならない。
 定岡は、進路指導主事として、年末までの業務日程を考慮しつつ、担任が抱える仕事の状況、3年生の生徒の状況をふまえ学年としての書類締切を設定した。その上で、書類点検のスケジュールを、教務主任や主幹教諭、管理職らに起案した。
 教頭らは「わかりました。忙しい中ですが、その日程で頑張ってください」と、定岡の提案を承認した。定岡は、ホッとした気持ちで、学年の職員に今後の業務に関するスケジュールを伝達した。

 それから3年の職員は、学期末の業務や、休み前の生徒への指導と並行して、進路に関する業務も予定通りこなした。この間、3年生では、予期せぬ生徒指導の問題の対応に追われた。進路業務に生徒指導、学期末業務が重なり、体調を壊して年休を取る教員も出る中、学年みんなで協力しながら書類をまとめ、最後は、土日も業務を行い、何とか所定の日に教務主任に書類を提出するところまでこぎつけた。
 ところが教務主任による書類の点検作業で、漢字の誤変換に象徴されるイージーミスが頻発する。白石教務主任は、永山教頭と広田主幹教諭にこの状況を報告する。永山教頭は、今後の業務の進め方を確認するために、広田主幹教諭、白石教務主任、中野学年主任、定岡進路指導主事を会議室に集め、ミーティングを行った。
 このミーティングにおいて、永山教頭は、これらの不備を再度、学年職員の長である中野学年主任と進路文書の責任者である定岡進路指導主事で再度点検し、各担当教諭に差し戻して修正させるよう求める。これに対し、定岡は、教頭案では、文書の完成予定日が遅れてしまい、提出期限に間に合わなくなってしまう恐れもあることから、不備は見つかった状況であっても、そのまま予定通り教務→主幹教諭→教頭と回覧を進め、教頭のチェックが終わった段階で、再度学年に戻し、そこでまとめて修正を行いたいと懇願する。これに対し教頭は、教務に上がる前に、限りなく不備のない状態まで完成させるのが本来の姿であると応じる。
 これらのやり取りの間、主幹教諭の広田と教務主任の白石は、苦々しい表情をしながら黙ったままである。
中野学年主任は気分を害したのか、憮然とした表情になりながらも、「わかりました、それなら再度、学年で点検します」と言って、提出した書類を回収し、静かに会議室を退席した。

 学年に差し戻しては、せっかく土日も返上で頑張った3年職員が報われない。第一、ここまでの業務で既に学年の職員は、皆かなり疲弊した状況にある。特に学年主任の中野や自分自身の心身の疲労はピークに達している…。
 ミーティングが、このまま終わる雰囲気となったところで、定岡は、この状況につき、学年に戻さず、このまま点検業務を進めてもらうよう、もう一度主張する。ここで、これまで無言だった白石教務主任がようやく口を開き、「やっぱり、もう少し余裕を持った期日設定が必要でしたね」とつぶやく。同じくこれまで無言であった、広田主幹教諭も「うん、学期末は、何が起こるか分からないからねえ」と他人事のようなコメントをする。
 これを聞いた定岡は、「この日程は、事前に先生方と協議して決めたはずです。簡単な漢字変換のチェックをやり損なったことは申し訳ないとは思っています。でも、書類が差し戻されることは、始めから想定にはありませんでした!そもそも、そのミスの点検のために、先生方に回覧しているのではないですか?白石先生や広田先生は、最近まで学年で働いていらしたのですから、我々が、この時期、どんなに大変かご存知でしょう!」と声を荒げてしまう。定岡の発言に、その場は、また沈黙してしまい、その間に耐えられず、定岡もその場を立ち去る。

 

問1.この文面から、中野学年主任や定岡進路指導主事が感情的になっていることが読み取れます。3年担当である2人の感情の高まりは、この学校のどのような状況に由来するものでしょうか。
問2.このような事態を避けるために、白石教務主任や広田主幹教諭に不足していたことはどのような点でしょうか。
問3.決裂したミーティングですが、この後の収集は、誰が、どのようにすべきでしょうか。