研修開発

ケースメソッド教材

授業を改善しましょう

 C 小学校は市の郊外に位置し、有数のベッドタウンに建設されている。その団地ができたと同時に学校も建設され、もうすでに20数年の時が過ぎている。
 そのため団地は高齢化が進み空き家等も多くなる一方で、小学校に通う児童のいる家族がそのような家を求めて引っ越してくるため児童数はここ数年横ばいである。
 しかし、両親が仕事で家にいない家庭や事情により親もとへ帰ってきた保護者の家庭、何かのトラブルにより引っ越してきた家庭など、何かしらの課題をもった家庭も多い。
 保護者は、学校についてはあまり関心がなく、子どもが嫌がらずに学校に行ってくれることだけで良いと考えている者が大半のように感じられる。
 また、学区に学習塾などはあまりなく、学力については、保護者も学校以外頼ることができない状況であるが、学力について不安に感じて個人懇談会などで相談してくることはあまりない。
 本校は各学年3クラスの18学級、特別支援学級2クラス、合計20学級の中規模校である。
 近年の大量採用の影響で新規採用者が増えており、本校にもここ数年、毎年のように新規採用者が数名ずつ配属される。現在、初任者~3年目の教員5名、新卒の臨時採用者2名であり4割近くが経験の
 浅い若手教員である。中堅といわれる教員は30代が中心であり、50代が数名、40代はいない。
 本年4月、A 主幹教諭が赴任してきた。A 主幹教諭は、今年度昇任したばかりの新任であり、職員室内の人間関係も築けていない状況である。
 本校は生徒指導上の対応が多くあり、放課後は家庭訪問や電話対応等に追われ、職員同士の自発的な交流をもてる雰囲気はない。定期的に予定されている学年会が月に2回程度あり、そこでお互いのクラスの状況を知るだけである。そのため日常的に若手教員が先輩の学級経営の良さや授業技術を知る場面がない状態である。
 初任者には、指導教員が配置されているが、数校の初任者の担当をしているため、本校では週に1回程度の指導となり十分とは言えない状況である。
 A主幹教諭が赴任して2か月が過ぎ6月となった。
 管理職やA主幹教諭は毎日、時間を見つけては校内を巡回し各教員に声をかけている。
 若手教員のクラスでは、手悪さをしている児童や窓の外を眺めている児童もおり学習をする雰囲気にはなっていない。中には、授業中に廊下に出て時間を過ごしたり、休憩時間後に教室へ帰ってこなかったりする児童がいるなど、いくつかのクラスは落ち着いているとは言えない状況である。各教員は、自分たちなりに授業を進めているものの教師主導の一方的な授業であることが多く主幹教諭、管理職は指導力の未熟さを感じている。
 校長は常々教員に、授業は子どもたちが主役であることや子どもたちが「わかった。」「できた。」と言える授業であれば、子どもたちも意欲的に授業へ向かうことができることを話してきた。
 しかし、教務部、研究部を中心に計画・実施されている年3回の校内授業研究は、日々の実践につながっていない感が否めない。

 このような状況からA 主幹教諭は、一番気になる若手E教諭と同学年であり教務主任のB 教諭に授業を互いに見合う様な授業改善に向けた研修などできないか話した。

 

A 主幹教諭:「 毎日、校内を巡視して様子を見ているのだけど、特に若い先生方のクラスでは、児童が教室の外に出ていたり、よそ見をしていたりして、子どもたちの学習への意欲が感じられないように思うのです。」
B 教 諭:「 ちゃんと授業はされていると思いますよ。生徒指導に追われる事が多々ありますが、この間も隣のE先生も遅くまで残って、教科書を読んでプリントを作っていましたから教材研究をしているように思いますよ。」
「まだ経験があまりないから仕方ないですよ。保護者からのクレームもないんでしょ。」
A 主幹教諭:「 クレームがあるか無いかではなく、子どもたちのことを考えて授業を改善する必要があると思うのです。」
「経験が無いからこそ若い先生方に力のある先生方の授業を見せてやりたいのですが…」
B 教 諭:「 保護者からのクレームが特にないのなら、そんなことしなくていいですよ。毎日、生徒指導が大変なのに気持ちも時間もそんなことに使いたくありません。」


 A 主幹教諭は、納得がいかなかった。そして、本校の教員は、生徒指導に追われている中、研修は余計な仕事と考えていると認識した。


 A 主幹教諭は、教頭に教員の指導力向上に向けて、特に若手教員の授業改善について何か良い手立てはないか相談することにした。


A 主幹教諭:「 教頭先生。毎日、巡回している中でお気づきかと思いますが、授業に対する児童の意欲が感じられません。まず、教員の授業力の改善を図る事が必要だと思うのですがいかがでしょう。」
「この間、教務主任とも話をしたのですが、特に問題が起きているわけではないから研修のようなものは必要ない。時間がない。と言われてしまったのですが…。」
教   頭:「 先生が言われるように、教師主導の教え込みの授業が多くて、子どもたちが主体の授業になっていないね。」
「ただ、先生方も忙しいだろうからどうすればよいかな。」


教員の多忙さに少し遠慮気味の教頭の返事であった。
A 主幹教諭は、「教師が意欲をもって授業に取組まないと子どもたちの学力はつかない。」「今から鍛えておかないと、若手教員の成長の機会を奪ってしまうことになる。」と思った。

 

問.あなたがA主幹教諭であれば、教員に対してどのような働きかけをしていきますか。