第一小学校は、通常の学級が6、特別支援学級が1で、全児童95名の小規模校である。全職員と全児童がお互いの名前を知っており、保護者や地域も学校との関わりが深い。このような学校の実態の中、第一小学校で1番在籍が長い上田先生は、5年間、様々な学年の担任を務め、保護者や地域から大きな信頼を得てきた。昨年度も、6年1組の担任として学校の教育活動に大きく貢献し、6年児童は上田先生との別れを惜しみながら、第一小学校を巣立っていった。その上田先生が、新年度から主幹教諭に昇任して同校で教務主任を務めることになった。校長や教頭は、児童や保護者、地域からの大きな信頼を得ている上田先生に、主幹教諭としての職務遂行に大きな期待を寄せていた。
4月当初、第一小学校では新たな職員が4名赴任してきた。その中の1人が江藤先生である。江藤先生は、前任校では生徒指導主任を務め、昨年度は生徒指導上の問題が多い学級を立て直してきたベテラン教諭であった。江藤先生は、5年1組の担任を受け持つことになった。
5年1組は、賑やかで自分がいかに目立てるかという態度をとる男子が多い一方、女子はもの静かで、中には男子の態度に困惑している児童もいた。その1人が斉藤さんである。
昨年度、4年1組の担任を務めた山下先生は、斉藤さんの困っていることを聞き取ってよりよい学級生活を送るための学級の話合いを行ったり、はめを外しすぎた男子がいる場合は個別に指導を行ったりしてきた。斉藤さんの保護者とも連絡を密に取り、相談にも親身になって対応してきた。このことは、担任決定後の新旧担任引き継ぎ会で山下先生から江藤先生に伝えられ、新年度がスタートした。
江藤先生は、男子と女子の態度のそれぞれに課題があると考え、高学年として、男子は落ち着いた態度を取ること、女子は積極的な態度を取ることを指導していった。そして、1学期が終了した。
2学期が始まる1週間前、斉藤さんの母親から学校に電話がかかってきた。電話に出たのは、その日出勤していた山下先生である。母親は、電話対応が山下先生ということもあり、娘の悩みを包み隠さず話された。それは、娘が2学期から学校に行きたくないということ、理由は江藤先生が怖いからということ、そしてこのことを江藤先生には話さないで欲しいということであった。
山下先生は、斉藤さんが江藤先生の何を怖いと思っているのかが分からないので、教頭の了解の下、母親と電話で話すよりも直接会ってお話を伺いたいことを伝え、家庭訪問をすることにした。教頭は、山下先生の家庭訪問を了解したのではあるが、あくまで前担任という立場で話を聞くことに終始できるよう、上田主幹教諭も同行することを指示した。
家庭訪問では、母親は「娘が、江藤先生の男子に対する指導がきつく、学級でそれを聞いていて、自分も怖くて震えてしまうと言っています。」や「女子も発言しなさいと言っていて、発言が苦手な娘は、授業中いつもどきどきしているということなのです。」と話された。その日は本人が不在で、本人には学校に相談することは伝えていないということであった。また、事を大きくせずに解決して欲しいということで、山下先生と上田主幹教諭は、斉藤さんの母親の話を聞くことに終始して家庭訪問を終えた。
学校に戻った山下先生と上田主幹教諭は、早速、家庭訪問での母親の思いを教頭に報告した。教頭は、上田主幹教諭に斉藤さんからの電話連絡や家庭訪問での会話の内容と、その対応を時系列で記録していくことを伝えるとともに、校長に報告した。校長は、斉藤さん本人は母親が学校に相談してきたことを知らないということや、母親は事を大きくして欲しくないという思いがあることを受け止め、前担任の山下先生ではなく、上田主幹教諭にこれからの対応を任せることを伝えた。
上田主幹教諭は、早速時系列で記録をまとめ、解決に向けた対応点がどこにあるのかを考えた。そして、次の4つを中心に据えるということを整理した。
○ 江藤先生に本件をどう伝えるか
○ 斉藤さん本人からの聞き取りや対応をどのように行うか
○ 母親に、これからの対応をどう理解してもらうか
○ 斉藤さんの言い分が妥当なら、江藤先生の2学期からの指導の在り方をどう改善していくか
江藤先生は、その日が夏季休暇で、次の日に出勤してくるということであった。次の日、上田主幹教諭は、江藤先生に前日の件を伝えた。
上 田:「 昨日、先生のクラスの斉藤さんの母親から電話での相談がありました。内容は斉藤さん本人が2学期から登校したくないと言っているということです。」
江 藤:「 どうしてですか。」
上 田:「 江藤先生、耳の痛い話をすることになりますが、気を悪くしないで聞いてください。先生の学級での指導が怖いということらしいのです。」
「このことは、母親が直接相談してきたことで、本人は相談したことを知らないでいます。また、江藤先生には知られたくないと言っているとのことです。」
江 藤:「 私の学級指導がまずかったと言っているのでしょうか。」
江藤先生は、困惑し、やや感情的になっていった。
問1.上田主幹教諭は、1学期の自らの職務遂行に、どんな課題があったと考えますか。
問2.上田主幹教諭は、この後、江藤先生、斉藤さん本人、母親にどのような対応をしていく必要があると考えますか。
問3.上田主幹教諭は、2学期から全学級担任へどのような指導・助言・調整を行う必要があると考えますか。