研修開発

ケースメソッド教材

組体操の教育的効果と学校の安全配慮義務

 城山小学校はA 市の郊外にあり、児童数600名前後の中規模校で、生徒指導面での課題が多い学校として知られていたが、近年は落ち着きを取り戻しつつある状況にある。
 校長の高木は今年度、校長に昇進し、城山小学校に異動してきたばかりの新任校長である。主幹教諭は鈴木(教職経験20年)、6年担任は西村(教職経験15年)と山内(教職経験10年目)、渡辺(教職経験3年)、5年担任は木村(教職経験23年)と山内(教職経験2年)で構成されていた。
 新体制でスタートした城山小学校の一学期最大の行事は運動会である。今年も5月の第4週目の日曜日に開催が予定されている。運動会の目玉は、5・6年生が行う「組体操」で特に5段タワーと7段ピラミッドと呼ばれる技が毎年注目されている。
 一方、組体操をめぐっては、毎年スポーツ庁から安全対策を万全にして実施するように各教育委員会に通知され、学校にも同通知と教育委員会からの注意喚起文書が届いていた。それを受けて、運動会で組体操を行わないようにする学校も少しずつ見られるようになっていた。昨年度、城山小学校では、「安全対策を十分に講じた上で、担任以外の教員で練習時間に授業がない教員もサポートに入って練習を行うこと」を条件に校長も容認していた。
 5・6年の担任らは今年度も同様に運動会では組体操が行われるものとして考えていた。とくに、渡辺先生と木村先生は、昨年度も5年の担任として、運動会で組体操を指導し、5段タワーと7段ピラミッドが成功したときの一体感や子どもたちの表情が忘れられず、今年度もやる気に満ち溢れていた。保護者からも「運動会の組体操、楽しみにしていますよ!」「去年の組体操を見ていたら感動して涙が出ました。」などの今年の運動会に期待を寄せる声を多く聞いていた。他の5、6年担任らも同様に、組体操を成功させようと考え、4月上旬の早い段階から練習メニューやプログラムの構成、安全対策、曲の選定について話し合ってきていた。
 5月に近づき、本格的に運動会の練習が始まろうとするとき、学年主任の西村先生と木村先生が校長室に呼ばれた。学校の方針として、①運動会ではピラミッド・タワーの技を行わないこと、②『組体操』という名称も使わないこと、が主幹教諭から伝えられた。校長も学校の安全配慮義務という観点からやむを得ないので理解してほしい旨が伝えられた。
 校長室で運動会の方針について説明を受けた学年主任は、すぐに他の5・6年担任の教員を集めて内容を説明した。その説明を聞いた渡辺先生・木村先生は、「ここまで準備してきて、さぁ、これから練習を始めようっていうときになって、急にこんなことを言われても困ります!」、「子どもたちにも絶対に組体操を成功させようって言っちゃいましたよ!」、「組体操でしか味わえない感動があるんですよ!」と興奮気味に学年主任に訴えた。その後の話し合いも二人は納得できない様子で、険悪な雰囲気が漂ったまま終わった。

 

問1.「学年主任」として、組体操を行うべきか否かについて見解を述べ、その見解に立ったときにこれから5・6年担任の先生たちと管理職に対して、どのような行動をとるべきですか。
問2.「主幹教諭」として、校長の方針を先生たちに伝え、調整するとしたら、どのように行うべきですか。