研修開発

ケースメソッド教材

誰でも経験したことがあることだから…

 東小学校は、15学級(特別支援学級知的1学級)の中規模校である。
 白井校長は在籍2年目。西教頭と主幹の南教務主任、教諭は、20代6名、30代2名、40代1名、50代4名、講師4名(定数欠2名、育休代理2名、内3名担任)。校長の学校経営方針を理解し、50代のベテラン教員が学年主任としての自覚をもって役割を果たし、30代・40代のよいモデルになっている。職員は、学力向上という明確な目標(学力テストの結果による危機感から)に向けて、「チーム東」を合い言葉に共通理解・共通実践を行い、子どもたちの学ぶ姿にその成果を感じつつあった。
 職員室には、休み時間になるとお茶を飲んだり談笑したりする教師の姿が日常的に見られ、“風通しのよい”職場が職員の自慢でもあった。4月1日には全職員で確認事項も一つ一つ丁寧に話し合い、子どもたちとの出会いを楽しみに始業式を迎えた。
 入学式や歓迎遠足、身体測定や家庭訪問などの新学年ならではの行事を経て、運動会が終わり6月を迎えた頃。学校全体も落ち着きはじめ、学級としてのまとまりも見られるようになってきた。校長は各学年の授業を観察し、指導状況を把握するように努めていた。授業を見て回る中で、3年2組は私語が多くなったことが気になり、西教頭に3年2組を重点的に見るように指示を出していた。
 3年生は2学級。43歳の橘先生が学年主任(3年1組担任)。橘先生は研究熱心な先生で、学校経営にも協力的で、テーマ主任として学力向上に貢献していた。3年2組の担任は、講師の佐藤先生(23歳、男性・講師2年目で初めての担任)。佐藤先生は、担任は初めてであるが、意欲に燃え、子どもたちに“分かる授業”をしたいと熱心に教材研究等にも取り組んでいた。気になる児童の指導等にも悩みながら、児童理解を深めたいと放課後の職員室でいろいろな先生に相談していた。佐藤先生は、先輩の先生方のアドバイスを素直に聞き入れ、いろいろな指導法を実践していた。同僚の先生方もそんな佐藤先生の姿を見て、学年を越えて何かと声をかけ励ましていた。新規採用の先生であれば拠点校指導教員等による研修の機会が保障されているが、佐藤先生は講師なので学年を中心とした研修体制となった。
 橘先生は、佐藤先生の意欲・個性を大事にしながら、適切な支援をしたいと考えていた。

 「3年2組の子どもたちが落ち着きません。忘れ物が多く、数人の子どもたちの授業中の離席が目立ちます。がんばっている子どももたくさんいるのですが…教師に対しての言葉遣いも気になります。」と西教頭に相談したのは、少人数指導で算数の授業にT2として3年2組に入っていた北先生。
 北先生の相談を受け、西教頭はまず学年主任の橘先生に3年2組の状況を聞いた。「佐藤先生はよく頑張っています。子どもたちとの接し方や指示の出し方なども教えています。自分も時々クラスを見に行っています。自分が行ったときは落ち着いています」との返答。校内巡回時、3年2組の補助指導に入り危機感をもっていた西教頭は、校長に相談し、教務主任、橘学年主任、佐藤先生を集め、現状と今後の方策について協議した。その結果、橘先生と合同授業や交換授業、新規採用教諭と同様に週一回授業研究(略案)後、西教頭による授業改善の指導、教務主任南先生の給食指導サポート体制を取ることになった。休み時間も子どもたちと遊び、児童理解を深めようとしている佐藤先生の姿に、西教頭は子どもたちとの関係改善を期待した。

 1学期も無事終わり、夏休みの個人懇談では、全ての保護者と話をすることができた。
 佐藤先生は、2学期が始まった1週間が勝負と思い、学級経営の立て直しを図ろうと意欲的だった。橘先生も、夏休みは佐藤先生と一緒に教材研究等をし、2学期に備えた。2学期の算数の授業は、西教頭、北先生、担任2人の4クラスで学年分割授業を計画した。

 2学期の大きな行事である学習発表会は、学年合同での“劇”を上演し、子どもたちが力を合わせて一生懸命がんばる姿が見られた。2学期も後半になり、橘先生は2組の子どもたちの様子が気になりながらも、2学期末までこの支援体制で佐藤先生を支えていこうと考えていた。
 同校では、毎学期末教育活動に対する実名の保護者アンケートを実施している。保護者による自由記述のご意見については、回答が必要なものについては担当が審議後全職員で共通理解した学校の見解をまとめ、その他のご意見については内容ごとに整理し保護者に発信している。温かい励ましの言葉、感謝の言葉も多く、教師の励みとなっている。白井校長は、保護者アンケートを通して信頼が構築され、学校改善が推進されていることを実感していた。
 11月末、担任のもとに実名の保護者アンケートが集まり、教務主任がアンケートの集約を始めた。学期末懇談会を控えた12月上旬。アンケートの内容が気になっていた西教頭は、南教務主任に「緊急性がある内容はないですか?」と尋ねた。「1件、気になる内容はあったのですが…」という回答。3年2組の保護者からのアンケートであった。

 


(中略) 学校で宿題をしてきたり、20分ぐらいで終わるので宿題が少ない気がします。子どものやる気もなく、「どうせ先生は見てくれない」と自ら宿題をしなくなりました。子どもたちが落ち着かず、担任以外の先生もよく教室に入ってあると聞きます。どうして3年生という一番大事な学年を新任に任せたのですか?


 

 

放課後、西教頭は佐藤先生を呼んだ。
西 教 頭:「 佐藤先生は、保護者アンケートに目を通して、教務主任に渡しましたか?」
佐藤先生:「 はい。」
西 教 頭:「 保護者が書かれた内容を読みましたか?」
佐藤先生:「 はい、読みました。すぐに学年主任の橘先生に相談しました。厳しい意見だけれども、誰でも若い頃はそんな経験をしている。そんなに気にしなくていいよと励ましていただきました」との回答。


明後日に、学習参観、懇談会を控えている。西教頭は、橘先生を呼んだ。

 

問1.あなたが橘先生だったら、この後どのように対応しますか。
問2.このケースに見られる危機管理面から見た東小学校の問題点は何でしょうか。