研修開発

ケースメソッド教材

若年教員の育成

 西山小学校は、児童数350人、学級数14学級(各学年2学級、特別支援学級知的1、自閉・情緒1学級)である。20・30代の教員が少なく、50代のベテラン教員が多い学校である。高橋教務主任は、西山小学校で教務主任を2年間勤めてきた。しかし、新採の先生の指導をこれまでに経験したことはなかった。
 4月1日を迎え、1日付で、3年間の講師経験がある梅宮先生が新規採用教諭として西山小学校に着任した。体も元気で活発に児童と遊ぶことができる先生だと、前任校の校長先生から聞いた北吉校長は、梅宮先生を1年2組の担任として迎え入れた。また、近年、若年層の大量採用が進められており、若手の育成は、市の喫緊の課題であったことから、北吉校長は、1年1組の担任は教員経験25年のベテラン女性教員を学年主任にした。さらに北吉校長は、新年度の担任発表後、すぐに向井教頭、高橋教務主任を呼び、梅宮先生の若年研修について話し合うことにした。新採の先生の育成を、新採指導の先生ばかりに頼るのではなく、私たち3人が一枚岩となり自校で責任をもち育てていくもの。年間3回の授業研究(国語科、算数科、図画工作科)をすること等を3者で確認し、高橋教務主任は、早急に若年研修の年間計画を立てることにした。高橋教務主任は、早速、教育センターの新採教諭研修と被らないように、また、自らの経験を基に無理のないように学期に1度、研究授業(指導主事、校長、教頭、教務、新採指導教諭が参観)の日程を組み込んだ年間計画表を作成した。年間計画表は、校長、教頭と話合った上で了承を得て、後日、梅宮先生と若年研修の話合いの際に提示することにした。
 1年生は月曜日から金曜日まで5校時で授業が終わる。5校時後の15時30分から、校長室で北吉校長、向井教頭の同席の下、梅宮先生と若年研修について話合いが行われた。若年研修の年間計画を梅宮先生に提示した高橋教務主任から、「各学期に1回研究授業を行います。講師の要請をしている関係上、もし、日程等に無理があればすぐに教えてください。1学期は7月1日を予定しています。指導案は、大変でしょうが児童観から本時案まで作成してください。教育センターには指導案の資料もあります。学校にも参考文献や参考になる指導案もありますから、計画的に授業づくりに励んでください。分からないとことや心配なことがあれば、早めに管理職でも私でも、周りの先生方でもよいですから、相談されてくださいね。」と伝えたところ、「ありがとうございます。」「がんばります。」と言い、梅宮先生から前向きな発言が聞けた。向井教頭からは、「自校で若年者を育てることの意味や、指導力向上は児童の学力等の向上につながること等」が話された。北吉校長からは、「この一年間は特に大変だと思いま
すが、体に気を付けて頑張ってください。遠慮なく何でも相談してください。」と、励ましの言葉をいただいた。
 5月中旬になり、梅宮先生は、新採指導教諭の先生や周りの先生のサポートの下、少しずつ板書や発問、机間指導等の指導技術を高めていった。北吉校長や向井教頭も校内を巡回するときには決まって梅宮先生の教室に入り、児童への指導場面を参観されたり、放課後に梅宮先生に指導してくださったりした。高橋教務主任も、若年研修の年間計画が順調に進んでいるか確認したり、指導場面で気になったことは梅宮先生に直接指導・助言したりした。その際に、「7月1日の研究授業の準備は、どうですか?」と梅宮先生に訊くと、「今、考えていますが大丈夫です。まだ時間もあるから。」と答えた。高橋教務主任は一瞬気になったが、本人の言葉を信じて、考えがあるかもしれないと思い、待つことにした。

 6月20日、運動会が終わり、梅宮先生も他の先生方とのコミュニケーションもとれ、だいぶん学校に慣れてきた。運動会が終われば、水泳学習の期間に入る。また慌ただしい時期を迎える。高橋教務主任は、研究授業の準備の進み具合を聞くため、職員室の梅宮先生の席まで行き訊いてみた。すると、「まだ、何も考えていません。」と答えた。「何もって?国語科のどこの単元を授業するかも、ですか?」と聞き返すと、「ええ。全くです。」と答えた。高橋教務主任は、「5月中旬の段階で、大丈夫です、と答えたけど、あれは…?」と問うと、梅宮先生は、「あれから考えようとしたんですが、体はついていくのですが、頭がどうもついていかなくて。教科書とか広げてみたんですけど、どうもやる気が起こりませんでした。」とはっきりと答えた。高橋教務主任は呆れてしまった。「7月1日に、指導主事の先生を要請しています。今日は6月20日…今まで本当に何も考えていなかったのですか。」と問うと、「だって勝手に年間計画を決められて。こっちだって色々予定があるのに。第一、私自身やる気が起こりません。うちの学校だけです。年間3回も研究授業とかするのは。」と言い、泣きながら高橋教務主任に話した。そばにいた学年主任の先生も呆然と立ち尽くし、ただ慰めることしかできなかった。

 

問1.教務主任の立場として、あなたならこの後、梅宮先生に具体的にどのような対応をしますか。
問2.あなたなら、北吉校長、向井教頭、それぞれの管理職に対して、梅宮先生にどのような指導・助言を求めますか。
問3.このケースの場合に限らず、教務主任として、若年研修や年間計画を立てる上で気を付けることは何ですか。具体的に答えてください。