科学研究費補助金中間報告書

教育行政の費用効果分析の可能性及び「校長の専門職基準」の再検討

研究代表者より

本研究は「学校管理職養成の「費用対効果」研究―韓国校長資格研修をてがかりに―」と題し、学校管理職(なかでも校長職)、そして費用対効果(費用効果分析)、大韓民国・校長資格研修の3つをキーワードとしている。まず1つめの学校管理職(校長)の養成をめぐっては、我が国では従来の擬制的な養成制度から資格・免許制度への転換をめざして、もしくはプロフェッショナルとしての学校管理職の有り様を希求して「校長の専門職基準」(2012一部改訂版)など資質・力量のスタンダード確認への模索が行われている。2つめの費用対効果については、財務省への説得材料や議会対策など公共選択論として以前より注目されながらも教育行政の分野では必ずしも十分に研究がすすんでこなかったものである。3つめの韓国校長資格研修については、我が国の校長養成システムとは一線を画しており、また校長職を専門職とみなし豊富な財源投資によって行われている意味でも、筆者がこれまで関心をもち続けてきたものであり、前の二者が相対的には基礎的・理論的課題だとすればこれは応用的・実務的課題として前二者の交錯する位置にある。というのも、筆者は2011年度にソウル大学校附属教育行政研究院で実施された360時間(二ヵ月半)のプログラムに参加したが、この校長資格研修が2011年から2012年にかけて大幅に改訂され、結論的にいえば360時間から180時間に半減されてしまった。これは費用対効果の観点からのリストラクチャリングなのか、それとも別目的のもとにドラスティックに改訂がなされたのか、そうした問いを明らかにすることが本年度の課題でもある。

中間成果報告としての本紀要では、その基礎的な研究作業として校長職のスタンダード(我が国では「校長の専門職基準」(2012年一部修正版))の到達点と課題の整理を行うとともに、教育行政領域における費用効果分析の可能性(研究アプローチとしての有効性の検証)の模索を行い、そして応用問題としての韓国校長資格研修の現状と課題についてのインタビュー調査(2012年)の成果報告を行うことを目的とする。本中間報告書のサブ・タイトルを「―教育行政の費用効果分析の可能性及び「校長の専門職基準」の再検討―」としたのはそのためである。

したがって、本紀要の構成は以下の通りとする。まず、「校長の専門職基準」(2012年版)に対する批判的考察を行うことによって今日的な校長の資質力量をめぐるスタンダードについての理論的な到達点について確認する。次に、教育行政分野における費用効果分析の有効性について、具体の事例を用いて①費用効果、②費用便益、③費用効用、④費用実現可能性といった手法の援用可能性を提示する。最後に、インタビュー調査の記録をもとに2012年8月の時点における韓国の校長資格研修の状況を報告する。もちろん3つの柱はまだしっくりと絡み合っているわけではないが、最終年度の科学研究費調査研究に向けての分析枠組みをつくるに必要な基礎作業となることを期して行ったものである。

  

 

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本書は、3部構成となっています。それぞれの部ごとにPDFをダウンロードすることができます。

 

構成 タイトル
 
  表紙 PDF
 
第Ⅰ部 第1章 「校長の専門職基準(2009年版一部修正)」の批判的検討(pp.3-22) PDF
 
第Ⅰ部 第2章 ケースメソッド事例(pp.23-35) PDF
 
第Ⅱ部 第1~6章 教育行政における費用効果分析の可能性―試論的考察―(pp.71-104) PDF
 
第Ⅲ部 韓国校長資格研修の現状(2012年度)(pp.105-137) PDF
 
  執筆者紹介 PDF
 
一括版 第Ⅰ部~第Ⅲ部 一括版PDF